脂質の消化吸収と代謝
◆ 脂質の消化吸収と代謝
脂質の消化吸収と代謝について、まとめてみました。
長鎖脂肪酸と中鎖脂肪酸では、消化吸収も代謝も仕組みが違います。
それぞれまとめてみます。
内容を覚える必要はないと思いますが、それぞれの仕組みを知ることで、「脂質の選択」をする際の判断基準のひとつになると思います。
◆ 長鎖脂肪酸
一般的な脂質は、長鎖脂肪酸です。長鎖脂肪酸の消化吸収、代謝の仕組みは、一般的な油(脂質)のことを指しているとお考え下さい。脂質は水と馴染みません。よって消化吸収も代謝も複雑な仕組みで行われます。
長鎖脂肪酸の消化吸収
・身体は水。水と油はなじまない。
・胃ではほとんど分解されない。
・小腸で分解吸収。
・トリグリセリドのままでは取り込むことができない。
・一旦分解してから身体に取り込む。
・膵リパーゼ(酵素)がトリグリセリドを分解する。
・脂肪酸×2とモノグリセリドに分解される。
・それを胆汁酸ミセルというカタチで小腸の細胞の中に吸収する。
・小腸で吸収したのちにまたトリグリセリドにする。
・カイロミクロンという構造になって、リンパ液や血液を循環していく。
・ぐるぐる循環する中で、血液の中のリパーゼ酵素で分解されて、エネルギーの必要な各組織に、脂肪酸というカタチで吸収されていく。
長鎖脂肪酸の代謝
・脂肪酸は細胞内で、長鎖脂肪酸+補酵素A・・・アシルCoAとなる。
・アシルCoAは、ミトコンドリア膜を通過できないため、カルニチンと結合する。
・その後、ミトコンドリアに入り、アシルCoAに再生される。
・アシルCoAは、ミトコンドリア内でアセチルCoAという代謝中間体にまで分解される。
・アセチルCoAは、TCA回路に入って代謝される。
・これらの経路をβ酸化という。
◆ 中鎖脂肪酸
中鎖脂肪酸という脂肪酸があります。炭素数が8~12の(C8 カプリル酸、C10 カプリン酸、C12 ラウリン酸)の脂肪酸です。この中鎖脂肪酸は、長鎖脂肪酸と消化吸収、代謝の仕組みが違います。ただ、C12だけは長鎖脂肪酸に近いとされますので、C8、C10のことと理解していただいても大丈夫です。
中鎖脂肪酸の消化吸収(C8、C10)
・中鎖脂肪酸はわずかながら水溶性。炭素数が短いほど水溶性が高い。
・中鎖脂肪酸は、胃の内部で加水分解される。胃リパーゼによって脂肪酸とグリセロールに加水分解。
・小腸上皮細胞に吸収される。
・脂肪酸のカタチで門脈経由で肝臓に運ばれる。
消化吸収機構は、長鎖脂肪酸とは大きく異なる。
・胃で加水分解される。
・膵リパーゼは必要ない。
・胆汁酸ミセルへ溶解する必要もない(鎖長が短いため)。
・胆汁酸は必要ない。
・小腸細胞内で再合成されてリンパ系を介して抹消組織に運ばれることもない。
・ミセルを形成することなく小腸上皮細胞に吸収される。
中鎖脂肪酸は、複雑な消化吸収の過程が非常にシンプル。
中鎖脂肪酸の代謝
・遊離脂肪酸として直接ミトコンドリアに運ばれる。
・β酸化を受け、エネルギー源となる。
・摂取後3時間で最大。10時間以内にほとんどが分解される。
・中鎖脂肪酸は、肝臓でエネルギーとして代謝されるか、ケトン体に変換されて各臓器においてエネルギー源として使われるか、どちらか。
・余剰の脂肪として蓄積されない。
代謝機構は、長鎖脂肪酸とは大きく異なる。
・ミトコンドリアへの移行にカルニチンとの結合を必要としない。
・長鎖脂肪酸より速やかにエネルギーとなる。
・ATPを消費しない。
・余剰の脂肪として蓄積されない。
中鎖脂肪酸は、複雑な代謝の過程が非常にシンプル。
ケトン体の生成
・中鎖脂肪酸を多量に摂取した場合、アセチルCoAが蓄積し、ケトン体へと変換される。
・中鎖脂肪酸は、肝臓において効率よくケトン体に変換される。
・効率は長鎖脂肪酸の数倍以上。
・中鎖脂肪酸の摂取で、糖質飢餓状態にならなくてもケトン体がつくられる。
◆ ケトン体
脂質の代謝の過程で、ケトン体が生み出されることがあります。ケトン体は、グルコース以外の脳のエネルギー源でもあります。ケトン体の代謝のことを把握すると「脂質の選択」の判断基準のひとつになります。
ケトン体
・糖質の供給が十分な時は、TCA回路が円滑に進む。
・β酸化によって生じるアセチルCoAは、TCA回路で速やかに代謝される。
ところが、
・アセチルCoAの供給が増える場合。
・糖尿病時、飢餓時、は糖の利用が低下。
・ビタミンB群不足で糖の利用がうまくいかない場合。
・脂肪酸から生成されたアセチルCoAが酸化されにくくなり、アセトアセチルCoAが発生する。
・アセトアセチルCoAから、ケトン体が生じる。
・TCA回路の回転率が低下した場合、アセチルCoAの処理が滞るために肝臓で生成される物質がケトン体。
・糖質からの解糖系によってアセチルCoAを産生する経路を失った場合、β酸化によるアセチルCoA産生に依存することになる。するとβ酸化の代謝が活発になる。
・ケトン体は、肝外組織でエネルギー源として利用される。
・ケトン体がエネルギー源として使われるのは、脳、心臓、腎臓、骨格筋。
※参考文献
この記事は、以下の会や、本などで情報収集、勉強したことを参考にまとめました。
日本脂質栄養学会
日本リポニュートリション協会
脂質栄養学(菅野道廣 著:幸書房)
脂質クオリティ(有田誠 編集:羊土社)
オーソモレキュラー・ニュートリション・エキスパート養成講座